ご家族の運転で後部座席に寝た状態で来院され、車からやっと降りて杖をついて中に入ってこられました。腰が痛いと聞いていましたが、痛みを感じる場所は右側のふくらはぎのようです。坐骨神経痛と考えれば納得できる症状です。先週から痛みが強くなり生活に支障があったそうですが、そもそもは昨年の6月から同じ症状で病院に通い、鎮痛剤の投与を受けておられました。
坐骨神経痛は、痛みの原因となる神経の炎症が経路のどこかで起こっていると考えます。椎間板ヘルニアによって圧迫されている場合が多いのですが、脊柱管狭窄症でも起こります。この二つの症状は多発する年齢が違います。椎間板ヘルニアでは20代に多いのですが、脊柱管狭窄症は変形が始まる50~80代の男性に多いという傾向があります。今回の患者さんは70代男性なので、脊柱管狭窄症からくる根性坐骨神経痛と考えることができそうです。
日経gooday HPより画像拝借
脊柱管狭窄症によって坐骨神経が圧迫される場合、脊椎にある神経の通り道「脊柱管」の内側で圧迫される場合と外側で圧迫される場合を想定します。
NHK HP「きょうの健康 あなたの腰痛 改善の決め手 腰痛のタイプ」より画像拝借
この図では背骨の真ん中にある脊柱管で神経が圧迫されている様子が図示されています。その脊柱管から外に伸びた神経が坐骨神経ですが、脊柱管の外側で坐骨神経が圧迫されている場合は、左右どちらかの片側に神経痛や神経麻痺が発生します。この圧迫は椎間板ヘルニアとよく似ており、症状もよく似ています。
さて、長い説明が続いてしまいましたが、この患者様の場合、片側に強い痛みの症状があるため、外側型の脊柱管狭窄症を考えるのですが、そうであればSLRやFNSといった神経をストレッチする検査で痛みが増強するはずです。しかしながら、その検査では症状が現れませんでした。
残される可能性としては、中心型の脊柱管狭窄による症状となりますが、こうなるとMRIで神経の圧迫状態を確認する必要がありますし、この方にはガンの既往があるのでそちらからの影響や神経自体の腫瘍(馬尾神経腫瘍)の可能性もあります。そこで医師の判断によりMRIなどの画像が必要であれば撮影可能な機材が揃っており、脊椎専門医がおられる地域医療支援病院を紹介することとしました。
紹介状には、ここまで私が考えたこと、当院での検査項目、既往歴、現在通院中の医療情報を簡易に書いて患者様用と医師用の2枚お渡ししています。書式は医師が読む時間を取られないようにわかりやすく、端的に書くようにしています。夕方、患者様のご家族から連絡があり、一旦入院となり色々な検査がこれから行われるということでした。痛み止めの点滴がよく効いたそうで、娘さんと元気にケンカを始めたそうです。
私がお役に立てたかどうかわかりませんが、患者様やご家族が安心できたようで、それをうれしく思います。
じゅこうさん 木下広志